フィリピン獣医診療奇憚/獣医事情<フィリピン獣医診療奇憚>フィリピンでの俺の活動は。 酪農牛の増産にあり。 主として、人工授精やそれの指導。 そして乳牛の飼い方や牛乳生産量のアップのためのアドバイスなどをしていたんだけれども。 一応獣医という事から、依頼があれば他の動物の治療にも当たっていた。 フィリピンはアフリカ時代とは異なり。 比較的先進国だ。 超貧乏な国で、物資不足の中で診療をした経験のある俺にとって。 フィリピンでの診療はらくちんだった。 ところが、ある日とんでもない依頼があった。 それは、俺も今まで診療した事がない。 そして、そんなの獣医が診療するの?てな感じの生物に対するものだ。 それは カイコ おいおいっ、虫さんじゃないかっ。 俺もそんなのは診た事がない。 見た事はあっても、診た事はない。 実は酪農組合の家で、副産業として養蚕を始めていた。 そこもじじいが酪農をやっているんだけど、息子がえらいなまけもので。 その息子が、養蚕を始めたのだ。 俺は、じじいがやっている酪農を手伝えよといったんだけど。 『そんなくそ儲からん、退屈な仕事はいやだ。カイコは一気に儲かるんだぞ』 とぼやいていた。 そいつは、じじいの子供といっても、もう40過ぎのおっさんだ。 フィリピンの典型的な例で、そいつの奥さんはまじめに町で事務職についている。だんなはぷらぷら。ようはヒモ同然だ。 フィリピンにいる頃、こういった家庭がすっごく多くて、フィリピン人の女性は偉い寛大なんだなあと感心したんだけど。 それと、ちょっとだんながうらやましくも感じたんだけど。 今考えると、だめだめの根源なんだよね。 それで、そいつが始めた養蚕業。 ↑カイコさんたちです。 なにやら、ここんとこ死亡するカイコが続出しちゃっているとのこと。 調べて何とかして欲しいんだと。 俺はカイコはさっぱりわからん。 虫じゃん、だって。 たぶん日本の獣医さんでも、カイコを診察できる人は非常にレアなはずだ。 大学時代に、養蜂(ミツバチ)の伝染病で、腐蛆病というのを習った事があるけど。 とりあえず、カイコは食用じゃないし、抗生物質を水に混ぜて霧吹きで桑にかけて飲ませてみたら?とアドバイス。 分量は?回数は? と、結局そいつさっぱりわからないらしいので、俺が赴くことに。 それで、実際に見てみると。 蚕が食っているのは、桑の葉だけじゃなかった。 ウシが食ってる普通のイネ科の草も混じっているじゃないか。 カイコは、通常桑の葉しか食べない。 桑の葉は、たんぱく質が豊富で、栄養価が高い。 だから良い桑を食べれば、良いシルクが生産される。 ところが、イネ科の草はセルロースが主成分で、それを消化するには、ウシみたいな特殊な胃袋を持った動物じゃないとできない。 カイコがイネ科の草を食べるキャパシティはないんだ。 たぶん、死んでる原因はそいつだ。 診断、消化不良と栄養不良。 と俺は、そいつにアドバイスしたんだけど。 『でもさぁ、桑の葉育てるの大変じゃん。それに他の草でも食うよ。』 おいおい、おまへは俺の話を聞いてるのか? 桑の葉しか食べないからカイコの絹は珍重され、結構な専門技術が必要だというのに。 この養蚕業は、日本のODAによって、十数年前に技術移転されたものらしいが。 楽して儲けようとする、フィリピン人気質には、こういったこつこつ働いてちょこちょこ小金を稼ごうという発想が欠けているんだ。 ODAとは政府開発援助。つまりは税金でまかなわれている。 フィリピンの養蚕業は斜陽のまんま。タイシルクや中国シルクなど、安くて良質なものが出回っている現在、今後発展するとは到底思えない。 俺は、親が子供に無駄遣いして新しいおもちゃを買ってあげたけど、すぐ飽きちゃって放り出しちゃっているようなのと同じ感覚を覚えた。 日本の技術はすばらしい。 でもそれは勤勉にこつこつ働く日本人だからこそ、成しえたものであって。 怠け者にはできない事だったのだ。 一年ぶりに訪れたときに。 そいつは、既に新しいおもちゃに飽きて。 カイコはもはや飼ってはいなかった。 それは、俺がフィリピンを去るときに、想像していた通りの事であったが。 獣医業としてではなく。 何か、すごく考えさせられる問題であった気がする。 <フィリピン獣医事情> フィリピン共和国。 そこは、まだまだ発展途上国。 人間の医療もままならないそんな発展途上国で、それじゃぁ獣の医療事情はどんな感じなのかって? いやいや、実は日本以上に発展しているんですよ、これがまた。 発展途上国だと。 貧乏で貧しい方々は、それはもう際限なく貧しい。 その貧しさは、日本の比じゃなかったりするのだ。 日本じゃホームレスの人だってなんだかんだと食う物があったりするけど、発展途上国だともう人間をやめなきゃならなかったりするくらい貧しい。 その反面、お金持ちは半端じゃないくらいお金持ちなのだ。 日本人からすれば、これほど理不尽な世界は内容に見えることが多いらしいが。 逆に日本は世界でも特殊なほうで、めっちゃ貧乏もいないけれど、とんでもない金持ちもいないというきわめて平均化されているのだ。 俗に日本は、共産資本主義なんてよく言われちゃっている事を知らないのは実は日本人だったりなんかする。 というわけで、人間の医療も均一に普及していないような発展途上国、フィリピンであっても、日本のような動物病院はちゃんと実在したりする。 まぁ、なんにでも需要と供給というものがあるわけなのだが。 さすが、フィリピン、アメリカ大好きのアメリカナイズされている国だけあって、それはそれは半端じゃない。 ↑ 日本じゃなかなか実現できていない、動物のための救急車♪ ちゃんと救急車なので、サイレンも鳴ったりします♪ 日本では、人命に関わる事項にしかこうした公共のサイレンを使用する事ができない。 俺は有料にすれば、別に動物相手でも救急車を作っていいと思うんだけど。 (もう法外ともいえる費用を請求してね) 正直お金持ちのやる事は気が知れない事が多々ある。 アメリカなんかじゃ、かわいいかわいい自分のにゃんこが死んだからといってクローンを作らせてしまうという狂った所まで進化してしまっている位なのだ。 ↑ そしてお金持ちはやはり半端じゃないのだ。 馬なんかも飼ってたりする。これは馬のための輸送車。 日本じゃ、なにやら『勝ち組、負け組み』とか言う単語が出てきちゃっているんだけど。 世界的に見たら、普通に勝ち組(つまりはお金持ち)と負け組(貧乏♪)とが存在しているだけであって。 そしてそういう国がほとんどであるのだ。 日本の皆さん、あなたは勝ち組ですか?それとも負け組みですか? 俺は、経済的に負け組み決定なのだ(笑) |